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大阪地方裁判所 昭和56年(行ウ)21号 判決

大阪府泉南郡岬町多奈川谷川二、九一九番地

原告

西田嘉男

訴訟代理人弁護士

松丸正

大阪府泉佐野市下瓦屋三丁目一番一九号

被告

泉佐野税務署長

岩崎克己

指定代理人検事

高須要子

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が、原告に対し昭和五三年九月一八日付でした、原告の昭和五二年分の所得税の更正処分(以下本件更正処分という)のうち、その総所得金額が四〇二万一、九九四円を超える部分、及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分(以下本件賦課決定処分という)を、いずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文と同旨の判決。

第二当事者の主張

一  本件請求の原因事実

(一)  原告は、訴外谷川漁業協同組合(以下谷川漁協という)の組合員で、小型定置網漁法により漁業を営んでいるものであるが、昭和五二年分(以下本件係争年分という)の所得について別表一の確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、昭和五三年九月一八日付で同表の更正処分等欄の内容の本件更正処分及び本件賦課決定処分をし、そのころ原告に通知をした。

原告は、右各処分につき、被告に対し異議申立をしたが、被告はこれを棄却する旨の異議決定をしたので原告は、さらに、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五五年一二月二五日付で同表の裁決欄の内容の裁決をし、昭和五六年一月二六日原告に裁決書謄本を送達した。

(二)  しかしながら、本件更正処分は、原告の所得を過大に認定したもので、内容に違法があり、右内容を前提とする本件賦課決定処分も違法である。

(三)  そこで、原告は、被告に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分の取消しを求める。

二  被告の答弁と主張

(認否)

(一) 本件請求の原因事実中、(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の主張は争う。

(被告の主張)

(一) 原告の本件係争年分の総所得金額及び算定の内訳は、別表二記載のとおりであり(その算定根拠の詳細は次に述べる)、その範囲内でなされた本件更正処分及び本件賦課決定処分は、いずれも適法である。

(二) 別表二の(一)の〈1〉の収入金額のうち、漁獲売上金額、のり養殖売上金額、漁業補償金額の内容は、次のとおりである。

1 漁獲売上金額 金二六六万一、〇四八円

原告は、被告に対し、収入金額について取引先を明らかにしなかつたし、裏付けとなる証票書類も一切提示しなかつた。

そこで、被告は、以下の方法によつて算出した。

谷川漁協において、原告と同種同規模の事業(小型定置網漁法)を営む者三名の漁獲に係る収入金額が調査により判明したので、次のとおり、その平均値によつた。

〈省略〉

右各同業者は、〈1〉谷川漁協に所属する小型定置網漁法を営む組合員であり、〈2〉その小型定置網の設置場所は、谷川漁協が有する共同漁業権の範囲内であり、〈3〉主として小型定置網漁法により漁業を営み、この定置網を一統設置している点において原告と類似しているし、基礎資料も正確である。

したがつて、この推計の方法は、合理的である。

2 のり養殖売上金額 金三九万円

原告の本件係争年分の種付のり網の設置数は五〇枚であるが、同業者の種付のり網一枚当りののりの生産枚数は七八〇枚であり、のり一枚当りの販売単価は金一〇円である。

種付のり網 生産枚数 単価 のり養殖売上

50枚×780枚×10円=390,000円

3 漁業補償金 金八九八万五、一五四円

(1) 原告は、谷川漁協の組合員である。

(2) 訴外関西電力株式会社(以下関西電力という)は、本件係争年分中に、谷川漁協を通じて原告ら組合員に対し、関西電力多奈川第二発電所の設置工事及び保守運営に伴う漁業補償金として合計六億四、〇〇〇万円を支払い、原告は、この漁業補償金の配分金として、谷川漁協から別表四のとおり、合計金、九三〇万三、九一二円を受領した。

右配分金のうち、五三・六二パーセントに当たる金一、〇三五万〇、七五八円は、関西電力の前記工事により共同漁業権、区画漁業権等の資産としての価値が減少することによる対価として、原告が、関西電力から谷川漁協を通じて受領したものであつて対価補償金の性質を有するから、原告の譲渡所得(所得税法三三条、同法施行令九五条)であり、このような対価補償金については、租税特別措置法(以下措置法という)三三条の四第一項四号、三三条一項七号、所得税法三三条三項の規定によつて、金三、〇〇〇万円までは、譲渡所得の特別控除額として非課税の扱いをうける。

しかし、右配分金等のうち四六・三八パーセントに当たる金八九五万三、一五四円は、原告の漁業の経営規模の縮少等による漁業収益の減少に対する補償、すなわち漁業収入の逸失利益である収益補償金の性質を有するから、原告の事業所得(所得税法二七条、同法施行令九四条一項二号)であり、このような収益補償金については、譲渡所得におけるような特別控除の定めはないから、右金額は、原告の事業所得の収入金額に算入されることになる。

(3) また、原告は、大和川左岸堤防工事及び泉洲沖国際空港観測塔見舞金の名目で、大阪府漁業協同組合連合会から三万二、〇〇〇円を受領したが、これは漁業収益に対する影響補償金と認められ、前述の理由から事業所得の収入金額に算入されることになる。

(4) 右(2)と(3)の合計額は、八九八万五、一五四円である。

(収益補償金) (大和川左岸堤防工事等見舞金) (漁業補償金に係る収入金額)

8,953,154円+32,000円=8,985,154円

三  被告の主張に対する原告の認否と反論

(認否)

(一) 被告の主張(一)は争う。但し、別表二の(一)の〈1〉の収入金額のうち、遊船売上金額、生命保険の外交員報酬の額、〈2〉の必要経費及び(二)の雑所得の金額とその内訳は認める(もつとも、必要経費については、後述するように被告の主張するもの以外にもある)。

(二) 被告の主張(二)の1の漁獲売上金額は、金一八〇万九、五〇〇円の限度で認め、その余は争う。

(三) 同(二)の2ののり売上金額は、金一一万三、三〇〇円の限度で認め、その余は争う。のりの一枚当たりの販売単価が金一〇円であることは、認める。

(四) 同(二)の3の(1)の事実は認め、(2)の事実のうち、原告が本件係争年分中に、関西電力から谷川漁協を通じて金一、八五〇万円を受領したこと(別表四の〈1〉の分)は認めるが、その余の事実は否認する。

(原告の反論)

(一) 被告の行なつた漁獲売上金額の推計には合理性がない。すなわち、

小型定置網漁法による水揚高は、定置網を設置した場所によつて著しく差異が生ずるものであるから、元来推計には親しまないものである。しかも、本件は、小型定置網の一統の規模の異なる、三人という小人数の同業者の漁獲売上金額を単純に平均化したもので、到底合理性があるとはいえないことが明らかである。

(二) 本件係争年分ののり養殖は、関西電力第二発電所からの温排水流出のため、そのほとんどが赤ぐさりをおこした。したがつて、このような異常な事態が生じた本件係争年分について、種付のりの網の設置から売上金額を算出することには合理性がない。

(三) 原告は、関西電力が施行する多奈川第二発電所設置工事の施行(電気事業法四一条以下、土地収用法三条一七号参照)に際し、右発電所予定地付近の漁場区域にのり養殖等の区画漁業権及び共同漁業権を有していた谷川漁協の組合員として、右工事施行による区画漁業権の消滅、共同漁業権の一部の制限に対する対価として、関西電力から谷川漁協を通じて右金一、八五〇万円を受領した。

そうすると、右金一、八五〇万円は、全額が対価補償金の性質を有し、原告の譲渡所得である。そして、措置法三三条一項七号、三三条の四の規定により、金三、〇〇〇万円までは、譲渡所得の特別控除額として非課税扱いにされるのであつて、原告の事業所得の収入金額に算入すべきものではない。

(四) 別表二の(一)の〈2〉の必要経費の内訳のほかに、次の金額(合計金一九〇万六、三一八円)を、原告の事業所得の必要経費に算入すべきである。

(1) 原告は、本件係争年分中に、原告所有の鰯加工のための作業所を取り壊し、その跡を整地してワカメの干場にする工事をした。原告は、右工事費用として、右工事を請負つた訴外株式会社泉州ブロツク建設外四社に対し、金八一万七、五七五円を支払つた。

(2) 原告は、取得金額金三二六万九、五〇〇円相当の定置網一枚を昭和四九年から昭和五一年にかけて、各部分を順次取り替えながら一体として保有していた。右定置網の本件係争年分の減価償却費は、金一〇八万八、七四三円である。

四  被告の再反論

原告の反論(四)の(1)、(2)の各主張は、いずれも争う。本件係争年分の必要経費に算入できるものではない。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件請求原因事実中、(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告の主張(一)の事実のうち、別表二の(一)の〈1〉の収入金額中の遊船売上金額金一万三、〇〇〇円、生命保険の外交員報酬の額金一〇九万五、六五〇円、〈2〉の必要経費の内訳及び額(但し、原告は、更に、別に必要経費として算入すべき額があると主張する)、(二)の雑所得金額金二六万八、一四五円、被告の主張(二)の1の漁獲売上金額のうち金一八〇万九、五〇〇円分(その余の金額についての判断は、暫く措く)同2ののり養殖売上金額のうち金一一万三、三〇〇円分(その余の金額についての判断は、暫く措く)、以上の事実は、当事者間に争いがない。

また、別表二の(一)の〈3〉の事業専従者控除額金八〇万円は、原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

三  被告の主張(二)の3(漁業補償金)について

(一)  原告が谷川漁協の組合員であること、原告が、本件係争年分中に、関西電力から谷川漁協を通じて金一、八五〇万円を受領したこと(別表四の〈1〉の分)は、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いがない乙第一一ないし第一四号証、第一六号証、証人西田与四清の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一〇号証及び同証言によると、原告は、本件係争年分中に、関西電力から谷川漁協を通じて、別表四の〈2〉ないし〈11〉のとおり、合計金八〇万三、九一二円を受領したことが認められ(この中には、原告に対して直接交付されなかつたものも含まれているが、いずれもその使途については谷川漁協の総会で原告を含む組合員の承認を受けたものであるから、その分についても原告が配分金の支払を受けたことになるというべきである)、原告本人尋問の結果中これに反する部分は採用することができず、他にこれを覆えすに足りる証拠はない。

そうすると、原告は、本件係争年分中に、関西電力から谷川漁協を通じて、合計金一、九三〇万三、九一二円を取得したことになる(以下本件補償金という)。

(二)  原告の本件補償金の取得につき、原告は、その全額(但し、金一八五〇万円と主張)が譲渡所得であり、措置法三三条の四第一項四号、三三条一項七号、所得税法三三条三項の規定により、金三、〇〇〇万円までは譲渡所得の特別控除額として非課税扱いになる旨主張し、被告は、本件補償金のうち、その四六・三八パーセントに当たる金八九五万三、一五四円は収益補償金であり、事業所得の収入金額に算入すべきであると主張するので、以下検討する。

前記(一)の争いがない事実、前掲乙第一〇ないし第一四号証、同第一六号証、成立に争いがない乙第一、二号証、第四ないし第九号証、同第一五号証、同第二六ないし第二九号証、証人西田与四清、同後藤鉄平、同前田全朗の各証言、原告本人尋問の結果の一部及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する原告本人尋問の結果の一部は採用しないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

1  原告は、昭和四九年四月以来、谷川漁協(組合員数六〇名)の組合員であり、谷川漁協の漁業権行使規則に従つて、谷川漁協が有する大阪府泉南郡岬町多奈川谷川地先付近の海面の共同漁業権及び区画漁業権を行使して、小型定置網漁業、のりの養殖等を業としている。

2  関西電力は、同所付近の沿岸に多奈川第二発電所設置の工事(電気事業法八条一項の規定に基づく公共工事)を進めるため、谷川漁協との間で、漁業補償の交渉をしたが、関西電力が当初考えていた対価補償を前提とする補償金約二億円ないし三億円では話合いがつかず、難行の末、岬町町長訴外谷崎登の仲介により、総額六億四、〇〇〇万円で決着した。

そこで、関西電力と谷川漁協は、右発電所操業に伴う温排水処理等の発電所の保守運営による右共同漁業権、区画漁業権の価値の減少及び漁業の経営規模の縮少による漁業収益の減少に対する補償として、関西電力が谷川漁協に一括して合計金六億四、〇〇〇万円を支払うことを条件に谷川漁協は右発電所設置に同意する旨合意し、関西電力は、昭和五二年五月二五日までに谷川漁協に対し右金額を谷川漁協で各組合員に配分してもらうことにして支払つた。

3  谷川漁協では、臨時総会において、その配分の割合を検討するための配分委員を選出し、これに配分に関するすべての権限を与えたが、配分委員会では各組合員の業種、事業の規模、稼働日数、漁協に納付する歩金額等を考慮して、配分割合を決定した。

そして、原告は、配分委員会が決めた配分割合に従つて、谷川漁協が受領した右金六億四、〇〇〇万円のうちから、その配分金として、本件補償金一、九三〇万三、九一二円を受領した。

4  関西電力は、右配分金を受けた組合員の所得税の申告に供するため、通産大臣が昭和三七年六月二九日の閣議決定「公共用地の取得に伴う損失補償基準」に従つて定めた「電源開発等に伴う損失補償基準」(昭和三八年公第六一三九号)、同細則に基づいて、前記六億四、〇〇〇万円の補償金及びその組合員に対する分配金のうちいわゆる対価補償金の占める割合、すなわち、右発電所設置による谷川漁協の共同漁業権、区画漁業権及びそれを行使する組合員の権利の価値の減少額に対応する分(対価補償金)の占める割合を算定した。

そして、現地調査をしたときの結果をも斟酌して漁業権の価値や温排水の漁種別影響率を具体的に検討したうえで、右対価補償金の割合を、総額で前記金六億四、〇〇〇万円に対して金三億四、三一六万八、〇〇六円(五三・六二パーセント)と算定し、組合員についての配分金についても各組合員が漁業に従事している実情や収益状況からみて同割合で算定することにした。

その結果、対価補償に相当しない分は収益補償金とされた。

5  関西電力は、昭和五三年三月一〇日すぎころ、このようにして算出した谷川漁協の各組合員に対する対価補償金及び収益補償金の額を記載した内訳表(乙第二〇号証)を作成し、谷川漁協組合長訴外西田与四清に対し、右内訳表記載の収益補償金についてはこれを事業所得の収入金額に加算して申告するよう伝えるとともに、各組合員宛に、右内訳表の対価補償金の額でその組合員の権利の一部を公共事業用資産として買い取る旨の証明書を発行した。

6  西田与四清は、同月一四日ころ、総会を招集するなどして、谷川漁協の全組合員に対し、右の関西電力からの確定申告についての指示事項を伝えた。

そこで、谷川漁協の組合員は、右内訳表の内容に従つて収益補償金を事業所得の収入金額に加算して確定申告した。

7  原告も、西田与四清の指示に従つて、関西電力が発行した原告の漁業権に基づく権利を公共事業用資産として金一、〇三五万〇、七五八円で買い取る旨の証明書(乙第一号証)を受領し、同月一五日、本件補償金のうち右買取価格を除外した金八九五万三、一五四円を収益補償金として自己の事業所得の収入金額に算入して、別表一の確定申告欄記載のとおり確定申告した(乙第二号証参照)。

8  原告及びその先代西田八郎(同人の死後、その子である原告が同人の漁業を受け継いだ)の昭和四七年ないし昭和五一年分の漁業に係る所得金額の申告状況は、別表五に記載のとおりであり、これによつて、原告及び西田八郎の過去五年間の漁業所得の平均値を算出すると、金九一万三、八〇〇円になる。

(算式)

4,569,000円÷5=913,800円

そして、電源開発に伴う損失補償基準、同規則に基づき、右平均値を八パーセントの利率で資本還元する方法で対価補償金を計算すると、金一、一四二万二、五〇〇円が算出される。

(算式)

913,800円÷0.08=11,422,500円

この補償基準額は、漁業権が全くなくなる場合、すなわち、対価の上限の金額である。

(三)  右認定事実によると、本件補償金のうち、金一、三五万〇、七五八円は、原告が谷川漁協の組合員として有する谷川漁協の漁業権の範囲内において漁業を営む権利(漁業法八条)を、谷川漁協を通じて関西電力に対し、その公共事業たる電気事業用(電気事業法四一条以下、土地収用法三条一七号参照)の資産として売り渡した対価、すなわち対価補償金であつて、これは原告の譲渡所得というべきであるが、その残額金八九五万三、一五四円は、結局、原告が、その漁業規模の縮少を余儀なくされることによる漁業収益の減少に対する補償金、すなわち収益補償金として、谷川漁協を通じて関西電力から取得したものであるとみるほかはなく、そうすると原告が漁業により得た収益として事業所得になるというべきである(所得税法施行令九四条一項二号参照)。

(四)  被告主張の漁業補償金のうち、大和川左岸堤防工事等見舞金三万二、〇〇〇円の分についての判断は暫く措く。

(五)  まとめ

原告は、本件係争年分中に、事業所得の収入にかかわる漁業補償金として少くとも金八九五万三、一五四円の収入を得たというべきである。

四  必要経費に関する原告の主張について

(一)  原告の反論(四)の(1)について

原告は、本件係争年分中に、原告所有の鰯加工のための作業所を取り壊わし、その跡を整地してワカメの干場にする工事をし、右工事費用として金八一万七、五七五円を支出したが、右金額は、原告の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであると主張する。

ところで、事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額について、所得税法三七条一項は、「別段の定めがあるものを除き、・・・売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用・・・の額とする」と定めているが、原告主張の右工事費用は、右条項所定の金額のいずれにも該当しないことが明らかである。

原告は、ワカメ干場の建設のために費用を支出することによつてこれと等価値の事業用資産を取得したのであるから、右建設費の支出が必要経費になる余地はない。

したがつて、原告のこの点に関する主張は、それ自体失当である。

もつとも、ワカメ干場は原告の事業用資産であり、減価償却資産といえるから(所得税法二条一項一九号)、その償却費を必要経費に算入することは可能である(同法四九条一項、二項)。

しかし、この場合でも、減価償却資産の耐用年数等に関する大蔵省令(昭和四〇年大蔵省令一五号)の別表第一(耐用年数表)、別表第一〇(償却率表。)に基づいて計算すると、最初の年の減価償却費は、金一〇万四、四八六円であり(但し、耐用年数を七年とし、定額法を採用した)、ワカメ干場が完成したのは昭和五二年一二月末ごろであるから(この事実は弁論の全趣旨により成立が認められる甲第二号証の一ないし六、証人前田全朗の証言によつて認める)、本件係争年分の減価償却費と認めることができるのは、その一二分の一である金八、七〇七円にすぎない。

(取得価額) (償却率)

817,575×(1-0.1)×0.142=104,486

(二)  原告の反論(四)の(2)についての判断は、暫く措く。

五  原告の本件係争年分の総所得金額

(一)  事業所得金額については、次のとおり算定される。

1  収入金額(次の(1)+(2)+(3)+(4)+(5)) 少なくとも金一、一九八万四、六〇四円

(1) 漁獲売上金額 少なくとも金 一八〇万九、五〇〇円

(2) のり養殖売上金額 少なくとも金 一一万三、三〇〇円

(3) 遊船売上金額 金 一万三、〇〇〇円

(4) 漁業補償金 少なくとも金 八九五万三、一五四円

(5) 生命保険の外交員報酬の額 金 一〇九万五、六五〇円

2  必要経費 金 七〇万九、八五四円

(ただし、原告は、他に、金一〇八万八、七四三円を主張((原告の反論(四)の(2))))

3  事業専従者控除額 金 八〇万〇、〇〇〇円

4  事業所得金額(右の1-2-3) 金一、〇四七万四、七五〇円

(右2の必要経費に原告主張額を算入すると、金九三八万六、〇〇七円)

(二)  雑所得金額は、金二六万八、一四五円であることにつき、当事者間に争いがない。

(三)  したがつて、原告の本件係争年分の総所得金額は、右の(一)の事業所得金額と(二)の雑所得金額を加算した金額で、(一)の2の必要経費につき、仮に、原告の主張する金一〇八万八、七四三円を算入することを認めたとしても、少なくとも金九六五万四、一五二円となる。

六  むすび

以上の次第で、本件更正処分は、原告の本件係争年分の総所得金額の範囲内でなされたものであるから、適法であり、本件更正処分を前提にする本件賦課決定処分にも違法はないことに帰着する。

そこで、原告の本件請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 八木良一 裁判長裁判官盂石盂則、裁判官山下寛は、いずれも転補のため署名押印することができない。裁判官 八木良一)

別表 一

〈省略〉

(注)〈特〉……特別減税額

別表 二

(一) 事業所得の金額 一、一六四万三、七〇五円

〈省略〉

(二) 雑所得の金額 二六万八、一四五円

〈省略〉

(三) 総所得金額((一)+(二)) 一、一九一万一、八五〇円

別表 三

減価償却費の明細

〈省略〉

(注) 上記車輌の減価償却費は、審査時の原告申立額である。

別表 四

〈省略〉

別表 五

〈省略〉

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